● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 藤田 健人 (大阪大学大学院理学研究科・准教授)

授賞題目: Fano多様体のK安定性の双有理幾何学的手法による研究

授賞理由: K安定性は、代数多様体が標準ケーラー計量をもつための条件であり、まずGang TianによりFano多様体がケーラー・アインシュタイン計量をもつための条件として定義され、後にS. K. Donaldsonによって、偏極多様体がスカラー曲率一定の計量をもつための条件として一般化された。 Fano多様体がK安定とは、テスト配位の中心ファイバーのDonaldson-Futaki不変量が正となることである。 藤田氏は、2019年にJournal fur die reine und angewandte Mathematikに出版された論文”A valuative criterion for uniform K-stability of Fano varieties”において、テスト配位とdreamy divisorとの関係に注目し、Donaldson-Futaki不変量の符号とlog discrepancyを用いて記述される双有理幾何学的不変量の符号が同じであることを示した。

 さらに、藤田氏は、尾高悠志氏との共著論文で、この双有理幾何学的不変量の新たな見方を与え、δ不変量とよばれる不変量を導入してその性質を詳しく記述した。この不変量は、双有理幾何学の範囲で計算可能であり、その後の多くの研究で用いられ、Chenyang XuらによるK安定なFano多様体のモジュライ理論の確立においても重要な役割を果たした。

 藤田氏は、微分幾何学から派生したK安定性の定義が、双有理幾何学の概念で記述できることを示し、K安定性の研究を代数幾何学の一分野として確立した。これは、微分幾何学の視点からも、ケーラー・アインシュタイン計量の存在に関する重要な結果である。藤田氏は、微分幾何学から代数幾何学への橋渡しを成し遂げ、関連分野の研究者に示唆を与える顕著な業績を挙げている。藤田氏の業績は、2023年度幾何学賞に誠に相応しいものである。


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