● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者:後藤竜司氏(大阪大学大学院理学研究科)

受賞業績:特殊ホロノミーをもつ幾何に対する統一的理論の構成

業績説明

 1955年にM. Bergerによって,リーマン多様体のホロノミー群として実現可能なリー群が分類されました.その分類によると,一般のn次元リーマン多様体やケーラー多様体のホロノミー群であるSO(n)やU(n),および既知である対称空間のホロノミー群を除くと,実現可能なホロノミー群は他に5通りしか存在しないことがわかります.

 そのうち,リッチ曲率が零となるリーマン多様体のホロノミー群としてSU(n), Sp(n), G_2, Spin(7)の4つのリー群が現れますが,SU(n)はCalabi-Yau多様体のホロノミー群,またSp(n)は超ケーラー多様体のホロノミー群に他なりません.

 これらのホロノミー群をもつ多様体の幾何学は,いくつか共通した性質をもつものの,従来は個別の幾何構造として,それぞれの場合に固有な事情を用いて研究されてきました.

 例えばCalabi-Yau多様体については,1980年代後半にBogomolov-Tian-Todorovによって,滑らかな変形の存在が小平・Spencer理論の枠組みの中で示されています(Ranや川又による代数的な証明も知られています).一方,ホロノミー群が例外型リー群G_2やSpin(7)となる多様体については,小平・Spencer理論は適用できないため多様体の貼り合わせによる方法を用いて,1990年代後半にD. Joyceにより滑らかな変形の存在が示されました.

 後藤竜司氏は,これらの幾何構造のモジュライ空間についての深い考察のもとに「閉微分形式が定める幾何構造」という概念を導入し,これら4つの特別なホロノミー群をもつ幾何構造の滑らかな変形やモジュライ空間を,統一的に構成することに成功されました.

 後藤氏による,これらの統一的な視点による証明方法は,単なる形式的な計算の枠を遥かに超えたものであり,幾何学賞に相応しい業績として高く評価されました.


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