● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 葉廣和夫氏(京都大学数理解析研究所)

受賞業績: クラスパーに沿った絡み目と3次元多様体の手術の研究

受賞理由: 葉廣和夫之氏は,絡み目と3次元多様体の不変量に関連した研究領域において,現在「クラスパー」および「葉廣展開」とよばれる,この分野の研究に不可欠な基礎理論を創始し,国際的に評価の高い独創的な研究業績を挙げた.

業績説明

 円周を3次元球面に埋め込んだ像を結び目 (knot) といい,複数の結び目が互いに絡んだ状態にあるものを絡み目 (link) という.ある結び目が,自己交差することなく別の結び目に連続的に変形できるとき,この二つの結び目は同じ(同値)とみなされ,結び目の同値類を分類することが結び目理論の基本的問題である.

 二つの結び目が同値であるか否かを判定するときに用いられる不変量として,古くからアレクサンダー多項式が知られていたが,1984年にジョーンズ(Jones)によりジョーンズ多項式が発見されて以降,量子群の表現を用いて結び目の「量子不変量」が大量に構成された.さらに1990年代初めにバシリエフ (Vassiliev) によって,結び目全体の空間のコホモロジーを考えることにより,結び目の「有限型不変量」の概念が定式化された.

 このような状況のもとで,葉廣氏は2000年に発表した論文において,クラスパー(これは葉廣氏の造語である)に沿った手術の概念を導入し,3次元多様体と絡み目の手術同値関係の理論を整備し,有限型不変量の概念を再構成した.(基礎部分については,独立にグザロフ (Goussarov) も,同等な別の方法により同様の結果をえている.)クラスパーに関する葉廣氏の一連の研究は,現在「clasper theory」とよばれ,有限型不変量の研究において不可欠な理論となっている.

 また,葉廣氏は2002年に発表した論文において,整係数ホモロジー球面の(量子不変量の列の摂動展開としてえられる)「摂動的不変量」はある特別な形に展開することができ,この展開式に1のベキ乗根を代入することにより,3次元多様体の摂動的不変量から個々の量子不変量がすべて復元することを示した.葉廣氏のこの展開は「Habiro's cyclotomic expansion」とよばれ,その後のThang Le氏との共同研究による一般化によって,「整係数ホモロジー球面のすべての量子不変量はLMO不変量(普遍摂動的不変量)から導出される」ことを意味する大きな結果へと発展している.

 葉廣和夫氏は,絡み目と3次元多様体の不変量に関連した研究において基本的な概念となりつつある「クラスパー」および「葉廣展開」の創始者であり,その研究は低次元トポロジーの分野において国際的影響力が大きく,幾何学賞に相応しい優れた業績として高く評価される.


幾何学分科会のトップ・ページに戻る
幾何学賞のページに戻る