● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者:平地健吾氏(東京大学大学院数理科学研究科)

受賞業績:強擬凸領域のベルグマン核の不変式論に関する研究業績

業績説明

 平地健吾氏は,滑らかな境界をもつ強擬凸領域とその境界の幾何と解析に関するFeffermanの研究プログラムの遂行に,本質的な貢献をされました.

 このFeffermanの研究プログラムの基本的なアイディアは, 強擬凸領域のベルグマン核をリーマン多様体(あるいは共形多様体)上の熱核の類似とみることであり, 熱核の漸近展開を通してリーマン多様体の様々な不変量がえられるのと同様に, ベルグマン核の漸近展開を通して強擬凸領域の双正則幾何(あるいは境界のCR幾何)の様々な不変量を導き出そうというものです.

 しかしながら,熱核の時間変数に対応する領域の滑らかな定義関数を双正則不変に選べないことが, 領域の双正則幾何と境界のCR幾何の対応に関する本質的な困難を引き起こしていました. 近似的に不変な定義関数は,複素モンジュ・アンペール方程式の近似解としてえられますが, この定義関数からFeffermanの方法で構成したワイル多項式の境界値は,誤差の影響でウェイトの低いCR不変量しか実現できず, その結果,ベルグマン核の漸近展開の係数関数をワイル多項式で書きくだすことも低いウェイトの項までしか実行できていませんでした. また,これらの困難はFeffermanの方法に本来的に内在するものではないかと思われていました.

 平地氏はこれらの困難を共に解決しました. すなわち,ある意味で定義関数のモデュライを記述する新しいパラメーターCを導入し,ワイル多項式の境界値がCに依存しない場合CR不変量となり, 逆に任意のCR不変量はこのようにしてえられることを証明しました.

 平地氏の構成法によると,実はこのCでパラメーター表示される定義関数の族が存在して, その族に話を制限するとあたかも定義関数が双正則変換則を誤差なくみたすかのように考えてよいことになります. そこで,Cに依存するワイル多項式を対応する定義関数の汎関数とみなせば, その意味でベルグマン核の漸近展開の係数関数をすべてワイル多項式で書きくだすことができます.

 平地氏の証明されたこれらの結果はまことに驚くべきものであり, その方法も今後多くの応用が見込めるものと大きく期待されています.


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