● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 本田公氏(南カリフォルニア大学)

受賞業績: 接触トポロジーの研究

受賞理由: 本田公氏は,3次元多様体の接触構造の研究において多くの独創的な研究業績を挙げた. それらは接触トポロジーの研究の中核をなすものであり,国際的に高く評価されている.

業績説明

 向きづけられた3次元多様体の接触構造は,積分不可能な平面場として定義され,局所的には1次微分形式αで,α∧dαが体積形式となるものの核としてあたえられる. したがって,3次元多様体の接触構造は,局所的には互いに微分同相であるが,大域的に微分同相になるとは限らない.

 例えば,3次元球面上にリー群の不変1次微分形式から定まる標準的な接触構造とは異なるタイトでない接触構造が存在することが,1980年代にBennequin達によって発見された. また1990年前後にEliashbergにより,タイトでない接触構造は,その平面場がホモトピックならばアイソトピックであること,3次元球面および3次元球体のタイトな接触構造は一意的であることなどが証明された.

 これらの研究を契機として,接触構造の研究は,3次元多様体論,Seiberg-Witten理論,シンプレクティック幾何学,結び目理論,葉層構造論,力学系理論など多くの幾何学理論と結びつき,接触トポロジーの研究という大きな流れが始まったといえる.

 このような状況のなかで,本田公氏はGirouxによる凸曲面と分割曲線の理論や神田雄高らの研究を発展させ,バイパスの理論を構築し,3次元接触多様体のトポロジーを理解する精密な位相的方法を開発した.

 その結果,本田氏はレンズ空間や,境界が凸であるソリッド・トーラス,および可解多様体などの上に定義されるタイトな接触構造の分類をGiroux氏と独立に行い,また2000年には,ポアンカレ・ホモロジー球面の鏡像上にはタイトな正の向きの接触構造が存在しないことをEtnyre氏とともに示し,多くの研究者を驚かせた.

 その後,本田氏の研究は位相的な方法に留まらず,Floer理論など4次元シンプレクティック構造の研究と影響し合いながら,更なる発展を始めている.

 これらの本田氏の研究業績は,接触トポロジーの研究の中核をなすものであり,幾何学賞に相応しい優れた業績として高く評価される.


幾何学分科会のトップ・ページに戻る
幾何学賞のページに戻る