受賞者: 入江 慶(東京大学大学院数理科学研究科 准教授)
授賞題目: 接触・シンプレクティックトポロジーとストリングトポロジーの研究
授賞理由: 力学系の研究において、周期点、周期軌道は基本的かつ重要な対象である。 保測力学系において、Poincare の回帰定理はよく知られている。 回帰点あるいは非遊走点に対し、その力学系を C^0-摂動して周期点にすることができる。 しかし、滑らかな多様体上の微分同相写像による力学系に対して、滑らかな摂動でそれが可能であるかは困難な問題で、Smale は21世紀に向けた問題集の中に C^∞-closing lemma に関する問題として挙げている。
入江氏は、Hutichings 達による embedded contact homology 理論による ECH capacities のある性質から3次元コンパクト接触多様体の Reeb 流で周期軌道の和集合が稠密になる接触形式は C^∞-位相について residual であることが導かれることを見抜いた。 引き続き、浅岡正幸氏との共同研究で、閉曲面のハミルトン微分同相写像に対する C^∞-closing lemma及び周期点が稠密になるものが residual であることを証明した。 これらの結果は、国際的にも注目され、高く評価されている。 また、Marques, Neves はコンパクトリーマン多様体の中の極小超曲面が豊富に存在することを証明していたが、入江氏はその議論に同様のアイデアを用いることで、generic なリーマン計量に対して、極小超曲面の和集合が稠密になることを Marques, Neves 両氏とともに証明した。 その後も、入江氏は彼らの研究の進展の3次元 Reeb 流の周期軌道の研究での類似を得るなど、活発な研究を続けている。
2000 年頃に Chas, Sullivan は、多様体のループ空間のホモロジーに新たな代数構造を導入した (ストリングトポロジー)。 当初より、ホモロジーレベルのみならずチェインレベルの代数構造が模索されていた。 入江氏は、深谷氏の approximate de Rham chain のアイデアを参考に de Rham chain という概念を導入し、それを用いたホモロジー論を展開した。 そしてループ空間に対して de Rham chain を用いて、チェインレベルの Batalin-Vilkovisky 構造を構成した。 入江氏の構成は、擬正則曲線のモデュライの理論と融合してシンプレクティック幾何学への応用することを見越して行われている。
以上のように入江慶氏は、接触幾何学、シンプレクティック幾何学、ストリングトポロジーの進展に大きく貢献している。