● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 鎌田聖一氏(広島大学大学院理学研究科)

受賞業績: 2次元ブレイドおよび4次元結び目理論の基礎の構築

業績説明

 古典的な結び目やブレイドは, 3次元空間の中の1次元オブジェクトとして 可視化可能な幾何学的対象であるため, 現在まで豊富な研究蓄積があります.

 しかし,次元を一つ上げた4次元空間内の2次元オブジェクト である2次元結び目は, 1920年代のアルティンの研究まで その起源を辿ることはできるものの, 1980年代後半に至るまで, その研究手法は確立していませんでした.

 鎌田聖一氏の業績の源は, 1990年にビロにより示唆された, 「古典的結び目がブレイドで表示できるという事実は, 分岐被覆をもちいれば2次元結び目にもなりたつであろう」 というアイデアにあります.

 鎌田氏は,まず2次元ブレイドを, 4次元空間の中の2次元結び目で, 2次元平面へ射影したとき適当な条件をみたす 分岐被覆になるものとして定義し, 分岐被覆の様相をチャート表示とよぶ 平面上の付加情報付グラフとして定式化しました.

 そのもとで古典論における, 任意の結び目がブレイド表示可能というアレキサンダーの定理と, 同じ結び目を表す図式の間の関係を記すマルコフの定理 に対応する事実が, 2次元結び目に対してもなりたつことを示しました. 鎌田氏のこれらの結果により, 4次元空間内の2次元結び目の研究を, チャート表示を用いて平面上で議論することが可能になりました.

 2次元ブレイドと4次元結び目理論の基礎を構築したという業績は, 1980年代半ばのジョーンズに始まる古典的結び目の不変量や その後の3次元多様体の位相不変量の研究が, 類似の定式化を根拠にしていたことを考えれば, たいへん重要であることは明白です.

 実際,鎌田氏による定式化が2次元結び目の研究に 大きな変革をもたらし, この10年の間に当該分野の研究が飛躍的に増えてきました. こうした状況は, 鎌田氏の業績がいかに基本的であったかを示すものといえます.


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