受賞者: 木田良才氏(京都大学大学院理学研究科)
受賞業績: 写像類群の測度同値剛性定理の証明
受賞理由: 木田良才氏は,写像類群における測度同値理論の研究において,測度同値という弱い同値関係から,ほとんど同型という極めて強い同値関係が導かれることを証明し,国際的に評価の高い独創的な研究業績を挙げた.
可算離散群に対する「測度同値」という概念は,擬等長同値性の測度論バージョンとして,1993年にGromovにより導入された同値関係である. 簡単に述べると,二つの可算離散群は,あるボレル空間の上に,測度を保つ可測作用で,可換かつ基本領域の測度が有限であるものをもつとき,測度同値であるといわれる.
例えば,ほとんど同型(有限核と有限余核を除いて同型)な二つの群は測度同値であり,また同じリー群の二つの格子は(ココンパクトであるかどうかに関わらず)測度同値となる. 一方,ココンパクトな格子は互いに擬等長であるが,ココンパクトな格子とココンパクトでない格子は互いに擬等長にはならない.
測度同値に関する最初の注目すべき事実として,1980年にOrnsteinとWeissによって証明された結果から「従順(アメナブル)な無限群は互いに測度同値である」ことが導かれる. このことにより,測度同値は一般に極度にゆるい同値関係であろうと考えられていた.
しかし,木田氏は「Γを種数が2以上の向きづけられた閉曲面の写像類群(すなわち,向きを保つ同相写像のイソトピー類のなす群)とするとき,離散群ΛがΓに測度同値ならば,ΛはΓにほとんど同型である」ことを証明し,測度同値という弱い同値関係から,ほとんど同型という極めて強い同値関係が導かれることを明らかにし,この方面の研究者に大きな衝撃をあたえた. その証明は,幾何学のみならず測度論的擬群論やエルゴード理論と深く関係し,それらの理論を一つ一つ整備することにより達成された.
この結果に引き続き,木田氏は写像類群作用においては弱軌道同値性と共役性が同値であることや,互いに共役でない作用が非可算無限個存在することなど,多くの重要な結果を証明している.
これらの木田氏の研究業績は,極めて完成度が高く,幾何学賞に相応しい優れた業績として高く評価される.