● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 清原一吉氏(北海道大学理学研究科)

受賞業績: 可積分測地流の大域的研究と $C_l$ 計量の具体的構成

業績説明

 清原一吉氏は,$C_l$ 多様体(測地線がすべて一定の長さ $l$ の閉測地線となるような計量をもつ多様体)の研究, およびそれから派生した可積分測地流の大域的研究において大きな貢献をされています.

 $C_l$ 多様体の研究は, 「3次元ユークリッド空間内の $C_l$ 閉曲面は標準的計量をもつ球面 $S^2$ に限るか」という D. Hilbert の問題に対して, O. Zoll が球面上に標準的な計量と等長的でない $C_l$ 計量を回転面の族として構成したことに始まるとされています. その後この方面の研究は,「射影空間(あるいは,より一般に階数1のコンパクト型対称リーマン空間)上の $C_l$ 計量は標準的なものに限るか」という Blaschke 予想を軸に発展し, 1970年後半に M. Berger によって実射影空間の場合に Blaschke 予想が解決され, また V. Guillemin により $S^2$ 上の $C_l$ 計量の一般的な存在証明がえられました.

 このような状況の下, 清原氏はまず高次元球面において標準的計量の $C_l$ 計量としての変形問題を考え, 無限小変形に対する2次の条件式を定式化し, Guillemin の結果が高次元球面 $S^n$ $(n\ge 3)$ に対しては成立しないことを示されました.

 その後,清原氏は引き続き $C_l$ 計量の具体的構成を研究され, その目的のためには良い性質をもつ可積分測地流の大域的研究が不可欠であると洞見するとともに, 楕円体をモデルとする Liouville曲面,Liouville 多様体の理論を発展させられました. そしてこの研究のなかで,関数をパラメータとする $C_l$ 計量の新しい族を構成に成功されました. また Liouville 多様体のエルミート版である K\"{a}hler-Liouville 多様体の理論を発展させ, コンパクトである種の非退化条件を満たす場合に, その構造を完全に明らかにされています.

 さらに $S^2$ 上の $C_l$ 計量で, その測地流がファイバーごとに k 次の第一積分をもつようなものを, 各 $k\ge 3$ に対して関数のパラメータをもつ族として構成されています. このような高次の次数の第一積分をもつ $S^2$ 上の可積分測地流が構成されたのは, $k\ge 5$ では初めてのことで高く評価されています.


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