● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 今野 北斗 (東京大学大学院数理科学研究科・准教授)

授賞題目: ゲージ理論の展開と4次元幾何学への応用

授賞理由: 今野氏は、族についての Seiberg-Witten 方程式と ASD Yang-Mills 方程式の解のモジュライ空間を用いることにより、きわめて独創的な手法で、4次元多様体のトポロジー、微分同相群、微分幾何学の発展に大きく貢献した。 2020年に Invent. Math. に掲載された谷口氏との共著論文“Positive scalar curvature and 10/8-type inequalities on 4-manifolds with periodic ends”では、リーマン幾何学の古典的な問題である正スカラー曲率(PSC)計量の存在問題に対して、 10/8-型不等式を考えるというアイデアを持ち込むことで新展開をもたらした。 具体的には、有理ホモロジー S1×S3 で、ある条件を満たすものがPSC計量を持つという仮定のもとで10/8-型不等式を証明し、これを用いて、PSC計量を許容しないような新たな例を与えた。

 2021年に Geom. Topology に掲載された論文“Characteristic classes via 4-dimensional gauge theory”では、4次元多様体をファイバーとするファイバー束の特性類をゲージ理論によって構成した。 Lin との共同研究では、この種の特性類を用いて、4次元多様体の微分同相群の分類空間のホモロジーについて、安定性定理が成立しないという、4次元特有の現象を見出した。 また、Baraglia との共同研究により、族についての Seiberg-Witten 不変量を従来の Seiberg-Witten 不変量から計算する手法を開発した。 このように、今野氏はゲージ理論を4次元多様体の族について展開する「族のゲージ理論」の基礎を確立し、その4次元のトポロジーと微分幾何学への応用について大きな発展をもたらした。 今野氏の業績は2024年度幾何学賞に誠に相応しいものである。


幾何学分科会のトップ・ページに戻る
幾何学賞のページに戻る