● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 倉西正武(コロンビア大学名誉教授)

受賞業績: カルタン-倉西理論,CR幾何,倉西族等に代表される単なる幾何学の枠組みを超えた多年にわたる輝かしい研究業績

受賞理由: 倉西氏による卓越した仕事は数多くありますが,ここでは以下に絞って述べます.

 まず, (1) についてですが, 倉西氏は多様体上で外微分形式系の包合系への延長に関するカルタンの予想を解決し, さらに無限次元リー擬群の研究を行いました. この理論は, その後 D.C.Spencer, Singer-Sternberg, Guillemin を始めとする多数の数学者により, 大きく発展整備されることとなりました.

 次に, (2) の変形理論について述べます. これは歴史的には閉リ−マン面のモジュライの次元に関するリ−マンの仕事に遡ります. 1950年代には小平-Spencerにより複素構造の変形族の研究が進められましたが, 半普遍変形族の存在は, 小平-Spencer-Nirenbergによって, 接束の2次コホモロジーが消える(その結果モジュライは非特異)という条件の下でしか知られていませんでした. ところが1962年に倉西氏は, そういう条件なしに(モジュライが特異となる場合も込めて)半普遍変形族の存在を示すという記念碑的結果を得ました. このとき用いた枠組みが, モジュライを扱う場合の倉西族および倉西写像として, 後に続く多くの幾何学者に多大の恩恵をもたらすこととなりました.

 最後に, (3) についてですが, 9次元以上の強擬凸CR多様体についての複素ユークリッド空間への局所CR埋め込み可能という倉西の定理は非常に有名です. この結果は後に赤堀やCatlin-Websterらにより7次元でも成り立つことが示されましたが, 3次元ではNirenbergによる反例が知られています. また倉西氏は, Grauert による孤立特異点の変形理論をCR幾何を通して研究することを提唱し, 後に宮嶋による結果として結実しています. さらに, ベルグマン核関数のCR幾何やカルタン接続を用いた研究に向かい, 小松や平地らによるベルグマン核関数の境界挙動に関する優れた結果のきっかけともなりました.


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