● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 桑垣 樹 (京都大学大学院理学研究科・准教授)

授賞題目: シンプレクティック幾何学と層の超局所解析の研究

授賞理由: Fan-Liu-Traumann-Zaslow は、トーリック多様体のホモロジー的ミラー対称性の一つの定式化としてconstructible-coherent correspondence を提言し、トーラス同変な状況での主張 (equivariant constructible-coherent correspondence) を証明した。 同変的でない元々の予想はその後10年くらい解かれていなかったが、2020年に Duke Mathematical Journal に掲載された “The nonequivariant coherent-constructible correspondence for toric stacks” により、非コンパクトな場合や、スタックの設定を含めて証明された。 アフィンの場合に帰着させて、局所的な同型を貼り合わせる議論は、圏論的議論とホモトピー代数に精通した桑垣氏ならではの成果であり、ホモロジー的ミラー対称性への層の超局所解析のアプローチで決定的な役割を果たすと高く評価されている。

また、2021年に Compositio Mathematica に掲載された”Irregular perverse sheaves” では D’Agnolo-Kashiwara による irregular Riemann-Hilbert 対応の別の定式化を与えている。 この定式化により、この重要な成果に近づきやすくなった研究者が出てくるなどの好影響が現れている。 以上のように、桑垣氏は層の超局所解析のミラー対称性やシンプレクティック幾何学との関連について卓越した研究成果を挙げていて、2022 年度幾何学賞受賞者として誠に相応しい。


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