● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者:満渕俊樹氏(大阪大学大学院理学研究科)

受賞業績:多様体モデュライに対する小林・ヒッチン対応の汎関数的手法による研究

業績説明

 閉リーマン面に対して,リーマン計量の各共形類に定曲率計量が存在することはよく知られた事実です.この事実の高次元化が,1950年代にE. Calabiなどによって試みられ,現在まで様々な研究が続けられています.その中で最も有名な結果が,1970年代後半に証明されたケーラー・アインシュタイン計量の存在定理です.すなわち,このような計量が存在するためには,第1チャーン類とよばれる特性類が正,零,または負であることが必要条件となりますが,第1チャーン類が負か零の場合に,実際にケーラー・アインシュタイン計量が存在することがS.-T. YauとT. Aubinにより証明され,数理物理学の研究においても重要な役割を果たしています.

 一方,第1チャーン類が正の場合には,1980年前半に正則ベクトル場の存在に関連する二木不変量とよばれる障害が発見され,またこれとは別の障害として,1980年代後半に満渕俊樹氏により現在では満渕汎関数とよばれているケーラー計量全体のなす空間上の汎関数が定義され,板東重稔氏と共同で正のケーラー・アインシュタイン計量が存在するならば,満渕汎関数は下から有界であることが証明されました.また満渕氏は,ケーラー計量全体の空間は無限次元対称空間とみなせること,またその上の測地線の研究が有効であることなど,この方面の研究の基礎を築かれました.

 他方,1980年代からYau達によって,ケーラー・アインシュタイン計量が存在するための必要十分条件は幾何学的不変式論の意味の安定性であろうと予想され,この予想は1990年代末のG. Tiangの仕事,2000年代前半のS. Donaldsonの仕事により,より具体的に定式化されるようになりました.これらの研究においても満渕氏の一連の研究が極めて有効に用いられています.

 満渕氏は,Donaldsonの研究と相前後してベルグマン核を用いた研究が有効であることに着目し,Donaldsonの結果を直ちに一般化するとともに,証明も改良されました.また,このような微分幾何的研究を用いて,代数幾何における安定性の研究にも著しい貢献をされています.

 満渕俊樹氏のこれらの研究は,幾何学賞に相応しい優れた業績として高く評価されます.


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