● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 枡田 幹也(大阪市立大学大学院理学研究科 名誉教授・特任教授)

授賞題目: 変換群論、特にトーリックトポロジーの研究

枡田氏は、変換群論を中心に数多くの重要な業績を挙げている。 枡田氏は、Buchstaber 氏達と共にトーリックトポロジーと呼ばれている研究分野の創始者の1人としてもよく知られている。

初期の研究成果に、「整係数コホモロジー環が複素射影空間のそれと同型な多様体が非自明な S1-作用を許すならば、その特性類は標準的な形をしている」ことを主張する Petrie の予想について、不動点集合の連結成分が4つ以下あるいは S1-作用が効果的な2次元トーラスの作用に延びている場合の肯定的解決がある。 多様体上にコンパクト Lie 群 (特に有限群) の非自明な作用を構成することは一般に難しい。 ある意味で標準的な作用がある時に、それとは異なる exotic な作用の構成が同変手術理論を用いて研究された。 枡田氏はこのテーマでもホモトピー複素射影空間上の巡回群の exotic な作用の構成、S6 上の5次交代群の作用で不動点が一点のみになる作用の構成などを Dovermann 氏との共同研究で得ている。 また、アフィン空間上の代数的ベクトル束は代数的に自明束であるという Quillen-Suslin の定理があるが、この同変版である簡約複素代数群の表現空間上の代数的同変ベクトル束が自明であるかという同変 Serre 問題(Bass が提唱)について、Petrie 氏、Moser-Jauslin 氏との共同研究で,作用する群が可換の場合は肯定的であることを示し、ある非可換群に対して反例を構成している。

枡田氏は、トーリック多様体のコホモロジー環の記述を同変コホモロジー理論を通して理解することにより、トーラス多様体と多重扇の概念を導入して、トーリック多様体と扇の対応をトーラス多様体と多重扇の対応に拡張するとともに、組み合わせ論との関係も広げた。 こうした一連の研究が現在トーリックトポロジーと呼ばれる分野の発端となった。 トーリックトポロジーに関する枡田氏の業績は、Gorenstein* 単体的半順序集合の h-ベクトルの特徴付け (Stanley 予想)、軌道空間がホモロジー的に非輪状であるトーラス多様体のコホモロジー環の決定(Panov 氏との共同研究),トーリック多様体の微分同相類がコホモロジー環で決まるかというコホモロジー剛性問題の提唱と部分的肯定的解決など優れた業績が数多くある。 近年は、Hessenberg 多様体のコホモロジー環の記述などで多くの研究者と共同研究を行い,トーリックトポロジーの研究を牽引している。

以上のように枡田氏は変換群論、トーリックトポロジーの進展に大きく貢献している。


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