● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者:松元重則氏(日本大学理工学部)

受賞業績:力学系理論と葉層構造論の接点における数々の研究業績

業績説明

 常微分方程式の解の大域的挙動の研究,およびその離散化である写像の反復の研究から発生した力学系理論は, 完全積分可能なパフ方程式系の解である葉層構造と大変密接に関係しており,その結びつきはとくに多様体の次元が2, 3次元である場合に顕著となります.松元重則氏は主にこうした低い次元での力学系および葉層構造に対して, 低次元多様体の特徴としてえられる相性のよい幾何構造に注目し, 世界をリードする数々の研究業績を挙げ,この分野の発展に重要な貢献を果たしてこられました.

 例えば約15年前に遡りますが,有界コホモロジーを利用することにより, 曲面上の円周束が底曲面のオイラー標数と同じオイラー数をもつとき, その円周束上のファイバーに横断的な葉層構造は位相的に一意的であることを示した画期的な論文は, 基本的文献として広く認知され,松元氏をこの分野の第一人者に押し上げたといえます. また松元氏は,共形平坦構造やアノソフ流に関する基本的事項を整理し文献として纏めるなど,この分野の研究基盤整備にも大変尽力されてきました.

 最近では,曲面上の面積を保つ微分同型で恒等写像にイソトピックなものについての固定点の個数に関するアーノルド予想を, 微分可能性を仮定しない保面積同相写像に対して示すという,将来の進展が大変期待される労作や,計算不可能と思われていた葉層コホモロジーが, 代数的アノソフ葉層を始めとするいくつかの典型的な葉層構造に対して有限次元になることを示し, 葉層の剛性に応用するという見事な佳作を完成させておられます.

 これらの充実したレベルの高い研究成果の累積により,今日松元氏は以前にも増して周囲を大きく啓発しておられます.


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