受賞者: 本多宣博氏(東北大学大学院理学研究科)
受賞業績: 自己双対多様体のツイスター空間の研究
受賞理由: 本多宣博氏は,自己双対多様体のツイスター空間,特にMoishezonツイスター空間の多重半反標準系を用いた研究によって,多くの重要な研究業績を挙げた. その独創的なアプローチは,研究の高い完成度や緻密さとあいまって,国際的にも高く評価されている.
「コンパクト自己双対多様体およびそのツイスター空間がどの程度存在するか」という基本問題に対し,'86年にPoonが複素射影空間の2個の連結和2CP^2のツイスター空間を非射影的Moishezon多様体として明示的に構成し,一般にm個の連結和mCP^2上にツイスター空間が存在するか否かは,多くの数学者の興味を惹くこととなった. 実際,ほどなくFloerやDonaldson-Friedmanが,すべてのmCP^2上にツイスター空間が存在することを示し,Taubesがその決定的な一般化を行ったことは良く知られている. ただこれらの結果はあくまで存在定理であり,ツイスター空間を具体的かつ明示的に構成したものではなかった.
そうした明示的構成に関して,Poon-Kreussler-Kurkeはm = 3の場合を考察し,genericなツイスター空間の表示を与えた. また LeBrunはmCP^2上の半自由なS^1作用で不変な自己双対計量,および対応するツイスター空間の明示的構成を行った. 一方, Joyceは2次元トーラスの作用で不変なmCP^2上の自己双対計量の族を明示的に構成し,さらにそのツイスター空間の明示的記述が藤木によって得られた. しかし,これらの成功例は,基本的には半反標準系と呼ばれる完備線形系を用いてツイスター空間を調べるもので,かなり限られた場合しか扱われていなかった.
本多宣博氏は,半反標準系の自然な一般化である多重半反標準系とよばれる完備線形系を用いて対象をひろげ,mCP^2上のツイスター空間の中で詳細な構造解析が可能な新しい系列を多数発見した. たとえば,Poon-Kreussler-Kurkeのツイスター空間において一般のmの場合にまで拡張できる系列を見いだし,m = 3の場合に限るとそのモジュライ空間の大域的構造が決定できることを示した. またmCP^2上のS^1作用からLeBrunの半自由性の仮定を除き,ミニツイスター空間上のconic束として多くのツイスター空間の射影モデルを具体的に与えた. さらにJoyceの族についても,ミニツイスター空間を用いてツイスター空間の射影モデルを具体的に与えることにも成功した. 本多氏のこうした一連の仕事の独創的なアプローチは,研究の高い完成度や緻密さとあいまって,国際的にも高く評価されている.