● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 尾高 悠志(京都大学大学院理学研究科 准教授)

受賞業績: K-安定性とモデュライ理論の研究

K-安定性の概念は, 特別なKähler計量を許容するための条件として, 代数幾何学のGIT安定性に倣い Tianにより定義されDonaldsonにより再定式化されたが, 当初は代数幾何学者からの注目度は高くなかった. このような中で尾高悠志氏は,Ross-Thomas によるスロープ理論を一般化し, あるテスト配位に対するDonaldson-Futaki不変量の明示的な公式(Wang氏と独立)を与え, 双有理幾何学を用いて以下に記す成果を挙げている.

佐野友二氏との共同研究では, ファノ多様体の場合に α 不変量に関するある評価からK-安定性が導けることの純代数幾何的な証明を与えた. さらに, 偏極代数多様体に対しK-半安定であれば, 持ちうる特異点は極小モデル理論の文脈で導入されたsemi-log-canonical特異点でしかないことを示した. また逆に, このクラスの特異点を許した一般型代数多様体のK-安定性も示しており, モデュライ空間のKSBA (Kollár, Shepherd-Barron, Alexeev) 構成がK-安定性に美しく適合していることは特筆に値する.

さらにその後の一連の研究で, K-安定なファノ多様体のモデュライ空間およびそのコンパクト化の構成に取り組み, Spotti氏とSun氏らと共同で理論の基礎を手がけ, 滑らかな曲面とその退化の場合を具体的な形で完成させ, その数年後にこのモデュライ空間構成論をSpott-Sun-Yao, Li-Wang-Xuと並ぶ仕事の中で高次元に拡張し, 複素微分幾何と代数幾何の交差点に立つモデュライ理論の金字塔を打ち立てた.

以上のように尾高悠志氏は, 密接に関係する特別な計量の存在問題とモデュライの理論おいて, 独自の発想でK-安定性を代数幾何学に取り込み, 複素微分幾何学と代数幾何学をより豊かに結びつけることに大きく貢献している.


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