● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 大鹿健一(大阪大学大学院理学研究科教授)

受賞業績: Bers-Sullivan-Thurston の稠密性予想の解決

受賞理由: Bers-Sullivan-Thurston 予想は, クライン群論における懸案の3大予想のひとつで,任意のクライン群は geometrically finite なクライン群の代数的極限になるであろうことを予想しました. Freely indecomposable, つまりコアの3次元多様体の境界が非圧縮的な場合は,内部の情報と外部の情報がうまく結びつき,Brock-Bromberg によりこの予想は解けていたのですが,境界が圧縮的である,すなわち freely decomposable な場合は難問として残されていました. 大鹿氏は,この freely decomposable な場合に予想の証明を与え,最終的な予想の解決を得ました. なお少し遅れて Namazi-Souto が予想の別証明を与えています.

業績説明

 任意のクライン群は geometrically finite なクライン群の代数的極限になるであろうという Bers-Sullivan-Thurston 予想は,クライン群論における懸案の3大予想のひとつとして知られています. Freely indecomposable という条件があれば,コアの3次元多様体の境界が非圧縮的で,内部の情報と外部の情報がうまく結びつき,Brock-Bromberg によりこの予想は解かれていました. ところが freely decomposable という背反条件では,そのような都合のよい前提は皆無であるとともに,たとえば Schottky 群などの大変ポピュラーなクライン群の活躍の余地が残ってきます. しかしながら予想のこの場合の証明には大きな困難が残っていて,大鹿氏のようなこの分野のエキスパートをもってしても70ページを超える論文を必要とするようなものでした. その意味で彼の見事な労作は,クライン群論の歴史に残る金字塔と言っても過言ではありません. 大鹿氏は,かねてより予想に対するアプローチとして
(1)双曲多様体のエンドが位相的に積 (Marden 予想)
(2)双曲多様体はエンド不変量で分類できる(Ending Lamination 予想)
を前提に,geometrically finite なクライン群の列の収束定理を示すための種々のマシーンの構築で卓越した業績を積み重ねていました. ところが,今世紀に入り Marden 予想と Ending Lamination 予想が解決されことが転機となって,大鹿氏が準備してきた彼のマシーンが非常に有効に働き,予想の最終的な証明がついに得られたのです.


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