● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 太田慎一(京都大学大学院理学研究科准教授)

受賞業績: フィンスラー多様体の幾何解析

受賞理由: 太田氏は,フィンスラー多様体に対し,重み付きリッチ曲率を導入し,その下限条件が,Lott-Villani-Sturm の曲率次元条件と同値になることを示しました. さらに,フィンスラー多様体の重み付きリッチ曲率が下に有界であるときに,ボレル・ブラスキャンプ・リーブ不等式を始めとする解析的にも重要ないくつかの不等式を得ました. こうした結果はフィンスラー幾何学において,おそらくここ何十年かで最も傑出した仕事と言われています. さらに彼はコンパクトなアレクサンドロフ空間上の相対エントロピー汎関数の勾配流を構成しましたが,これは最近の,Gigli-Kuwada-Ohta の共同研究へとつながる重要な結果で,測度距離空間の幾何解析を一変させる契機を与えるものと考えられています.

業績説明

 太田氏は,現在,測度距離空間上の幾何解析という分野で精力的に研究を行っています. そこでは,既知の結果の距離空間の場合への拡張のみならず,多様体の収束・崩壊理論への応用や,フラクタルなどの複雑な空間上の幾何解析的特性が,幾何学的方法で包括的に研究されています. 最近特に,距離空間の曲率の下限の条件の研究において,確率測度の空間に最適輸送距離を入れたワッサーシュタイン空間上の相対エントロピーの深い関与が発見され,その発見に基づいた解析学,幾何学,確率論の交わる研究が,非常に活発に行われるようになりました. この分野で,太田氏は,以下に述べるような独創的な業績をあげました.

 彼は,フィンスラー多様体に対して,重み付きリッチ曲率を導入し,その下限条件が,Lott-Villani-Sturm の曲率次元条件(測度距離空間へのリッチ曲率の下限条件を一般化したもので,ワッサーシュタイン空間上の相対エントロピーの凸性によって定義される)と同値になることを示しました. さらに,フィンスラー多様体の重み付きリッチ曲率が下に有界であるときに,ボレル・ブラスキャンプ・リーブ不等式を始めとする解析的にも重要ないくつかの不等式を得ました. こうした結果はフィンスラー幾何学において,おそらくここ何十年かで最も傑出した仕事と言われています. 彼は,それをさらにおしすすめて,ボン大学の Sturm 氏と共同で,フィンスラー多様体上のラプラシアン(非線形)や熱方程式などの研究を集中的に行っています.

 また太田氏は,コンパクトなアレクサンドロフ空間上の相対エントロピー汎関数の勾配流を構成しました. これは最近の,Gigli-Kuwada-Ohta の共同研究へとつながる重要な結果で,Bakry-Emery の 2-criterion のみならず,熱方程式の解やラプラシアンの固有関数のリプシッツ連続性が直ちに従うもので,測度距離空間の幾何解析を一変させる契機を与えるものと考えられています.


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