● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 齋藤恭司(東京大学数物連携宇宙研究機構主任研究員)

受賞業績: 周期積分の理論の現代化の実現

受賞理由: 齋藤氏は,特異点の組み合わせ論的側面を理解するため,正規ウエイト系の理論を構築し,特異点の消滅サイクルを一般化されたルート系で捉え周期領域を記述し,無限次元リー環を対応させる研究を行い,最近ではその圏論化の方向を示しています. この一例からも分かるように,彼は一貫して,18〜19世紀の オイラー,アーベル,ヤコビらによる楕円積分・周期積分の理論を現代によみがえらせようという壮大な構想で,その実現のため孤立特異点の普遍変形,原始形式,高次 residue pairing 等の理論を次々と建設しました. そして,その精力的な研究は世界的にも大きな影響を与え続けています.

業績説明

 初期の齋藤氏は,孤立特異点をもつ準斉次関数の特徴付け,アルティン群の研究等により世界的に知られることとなりました. その後,単純孤立特異点,楕円型孤立特異点などの理論の確立に多大の貢献を与え,彼の名は R.Thom, J.Milnor, A.Varchenko らと並び,孤立特異点の現代的理論に卓越した影響を与えた数学者として広く知られています.

 しかしながら,彼の原動力は一貫して,18〜19世紀の オイラー,アーベル,ヤコビらによる楕円積分・周期積分の理論を現代によみがえらせようという壮大な構想で,その実現のため孤立特異点の普遍変形,原始形式,高次 residue pairing, 半無限ホッジ構造,対数的ベクトル場などの理論を次々に建設しました. これは後に Kontsevich などによる非可換ホッジ構造や,Dubrobvin などによる量子コホモロジー等の研究に用いられているフロベニウス多様体を先取りしたものであり,現在では相互に鏡像対称性で結びつくものと理解されています.

 また齋藤氏は,原始形式を消滅サイクルに沿って積分し周期写像を実現するという観点から,特異点の組み合わせ論的側面を理解するために正規ウエイト系の理論を構築し,対応する特異点の消滅サイクルを一般化したルート系で捉え周期領域を記述する一方,楕円リー環等の無限次元リー環を対応させる研究を行いました. この一般的な対応は,古典的に良く知られている「単純特異点に対応する単純リー環」を超えた新たな無限次元リー環のクラスを産み出すこととなり,その表現論も現在建設されつつあります. また,最近ではそれらのルート系が,対応する特異点の matrix factorization の導来圏を用いて実現できることに着目して,無限次元リー環の圏論化の方向を示しています. 

 一方,アルティン群のように,代数多様体の基本群として現れる群などの解析に configuration algebra を導入し,対応する熱力学的極限関数を導入したのも,将来の研究の方向性を与える齋藤氏の最近の重要な結果です.

 このように彼は,古典に関する豊かな素養に基づく洞察力に見出され,数学の諸分野はもとより,理論物理の最先端での発展にも大きな影響を及ぼしつつあり,楕円積分・周期積分の理論の現代化の実現という構想のもと,指導的数学者として現在も精力的に研究を行い,世界的にも大きな影響を与え続けています.


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