● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者:塩谷 隆氏(東北大学大学院理学研究科)

受賞業績:アレクサンドロフ空間に関する一連の研究業績

業績説明

 1950年代に定義されたアレクサンドロフ空間は,(測地三角形の比較定理を利用して定義された)曲率の概念をもつ距離空間であり,1980年代から90年代にかけてのリーマン多様体の収束・崩壊理論の展開と共にその重要性が見直され, 1990年代初めにY. Burago-M. Gromov-G. Perelmanにより研究の基礎が確立されました.幾何学において曲率が果してきた重要性を鑑みるとき,アレクサンドロフ空間の研究はそれ自体としても大変重要なものです.

 塩谷隆氏は,桑江一洋・町頭義朗・大津幸男氏達との共同研究において,アレクサンドロフ空間の幾何学を更に発展させ,例えば,曲率が下に有界なアレクサンドロフ空間の特異点集合が測度ゼロとなることや,特異点集合の補集合上に自然なリーマン構造を定め,この特異空間が豊かな幾何学と解析学を展開出来る土壌であることを示しました.その後,塩谷氏はアレクサンドロフ空間上の関数に作用するラプラシアンに関する解析学を展開し,アレクサンドロフ空間の幾何解析に新境地を切り開いています.

 また塩谷氏は,曲面の全曲率の幾何学や,曲面や3次元多様体の崩壊理論などにおいても顕著な業績を挙げてきました.とくに,山口孝男氏との共同研究である3次元多様体の崩壊の研究は,最近のG. Perelmanによる3次元多様体の幾何化予想の証明(ポアンカレ予想の解決を含む)においても重要な役割を果たしています.

 塩谷隆氏のこれら一連の研究は,アレクサンドロフ空間の幾何解析および崩壊理論の可能性を大きく広げるものであり,幾何学賞に相応しい業績であります.


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