● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 相馬 輝彦(首都大学東京大学院理工学研究科 教授)

受賞業績: 3次元多様体論に関する一連の研究業績

受賞理由: 3次元多様体のトポロジーの研究は, Poincaré 予想が一つの中心だった時代を経て1970年代半ばに Thurston が登場したことにより大きく様変わりし, 双曲幾何を芯とする微分幾何学との結びつきがたいへん強まり今日に至っている. とくに Perelman により Thurston の幾何化予想が解決されたのは, 今世紀当初10年の数学界における最も大きなニュースであった. 相馬輝彦氏は3次元多様体論の様変わりの時期に研究者としてデビューし, その後30数年に渡り, 同分野で数々の興味深く重要な業績を挙げている.

同氏は1981年に, Haken 多様体の Gromov ノルムは JSJ 分解の双曲ピースの双曲体積に比例するという定理を示したが, 幾何化予想が解決された今日では, 同じ証明がすべての3次元多様体をカバーする結果として広く認知されている. また 1991年には, 3次元コンパクト多様体の被覆のコンパクト化が多様体になるための十分条件を与え, Waldhausen と Simon による平坦性定理を一般化した. 1998年には, 3次元双曲多様体の間の写像度がゼロでない写像はソースを指定するとターゲットは有限個であることを, たいへん美しく精細な議論で証明している. また, 2000年の3次元双曲空間に擬等長な空間の境界の閉曲線が囲む極小曲面の存在に関する Gabai 予想の解決も, その証明の技巧が多くの専門家を感嘆させている. 2006年に発表された Agol と Calegari-Gabai による Marden の平坦性予想解決の別証明は, 両者の理論を極めてスマートに蒸留させたもので, Agol および Calegari-Gabai 自身が高く賞賛し, 現在では相馬氏の証明が最も優れていると認知されている. さらに2013年には, McCullough と共に双曲的な底空間を持つ Seifert 多様体に対する Smale予想を解決している.

以上のように, 相馬輝彦氏は, たいへん深いアイデアと洗練された技法に基づき3次元の幾何とトポロジーにおける数々の重要で興味深い成果を挙げ, 3次元多様体論分野の中で確固とした流れを生み出している.


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