受賞者: 戸田幸伸(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構准教授)
受賞業績: 導来圏の安定性条件と Donaldson-Thomas 不変量の研究
受賞理由: 代数多様体上の連接層の導来圏は,超弦理論,非可換代数,シンプレクティック幾何などにかかわる種々の分野の対称性を体現する興味深い研究対象です. 2002年ころに Bridgeland の導入した導来圏の安定性条件は,ベクトル束の安定性条件を導来圏の上に自然に拡張したものです. しかしコンパクトな Calabi-Yau 3-fold に Bridgeland の意味での導来圏の安定性条件が存在するかでさえ,今もって未解決です. 戸田氏はこの条件を修正して「極限安定性条件」や「弱安定性条件」を導入してコンパクトな Calabi-Yau 3-fold の上にそういった安定性条件が存在すること,そして Donaldson-Thomas 不変量への目覚ましい応用を与えることに成功しました. 例えば導来圏の部分圏で1次元層と Calabi-Yau 3-fold の構造層で生成される部分圏における弱安定性条件が,ある安定性のパラメータについては Pandharipande-Thomas の安定対の理論,一方で他のパラメータについては Donaldson-Thomas 理論に対応することを示しました. さらに弱安定性条件での壁越え理論を適用することにより,Pandharipande-Thomas予想のオイラー数版を証明しましたが, これとBerhrend-Getzler によりアナウンスされた結果を併せると,Pandharipande-Thomas 予想を実質的に解決しました. また,彼と Bayer-Macri らとの共同研究によるBridgeland の本来の安定性条件の候補の構成と,Bogomolov-Gieseker 不等式との関係についての結果も高く評価されています.
代数多様体上の連接層の導来圏は,超弦理論,非可換代数,シンプレクティック幾何などにかかわる種々の分野の対称性を体現する興味深い研究対象です.
2002年ころに Bridgeland の導入した導来圏の安定性条件は,ベクトル束の安定性条件を導来圏の上に自然に拡張したものです. しかしコンパクトな Calabi-Yau 3-fold に Bridgeland の意味での導来圏の安定性条件が存在するかどうかでさえ,今もって未解決の問題です.
戸田氏は2007年に,Bayer とは独立に Calabi-Yau 3-fold の「極限安定性条件」を導入し,これは Bridgeland による安定性条件とは定義が異なりますが, Pandharipande-Thomas の安定対の理論と深い係わりをもち,さらに1998年ころに Donaldson-Thomas によって提唱された Calabi-Yau 3-fold 上の曲線の数え上げ理論である Donaldson-Thomas 不変量と安定対の理論との対応に関する Pandharipande-Thomas 予想の解決の端緒を与えるものでした.
一方,これとは別に,安定性に依存した Donaldson-Thomas 不変量のような量の,安定性のパラメータを変えたときの振る舞いの研究が Joyce によって行われており 「壁越え理論」 と呼ばれていますが,当時面白い応用があまり知られていませんでした. 最近,戸田氏は Bridgeland の安定性条件を修正して導来圏の「弱安定性条件」を導入し,Calabi-Yau 3-fold 上ではそうした安定性条件が存在すること,そして Donaldson-Thomas 不変量への応用を与えることに成功しました. たとえば導来圏の部分圏で1次元層と Calabi-Yau 3-fold の構造層で生成される部分圏における弱安定性条件が,ある安定性のパラメータについては Pandharipande-Thomas の安定対の理論,一方で他のパラメータについては Donaldson-Thomas 理論に対応することを示しました. さらに弱安定性条件での壁越え理論を適用することにより Pandharipande-Thomas 予想のオイラー数版を証明し,これと Berhrend-Getzler によりアナウンスされた結果と併せると,Pandharipande-Thomas 予想を実質的に解決しました. また,彼と Bayer-Macri らとの共同研究による、Bridgeland の本来の安定性条件の候補の構成と,Bogomolov-Gieseker 不等式との関係についての結果も高く評価されています.