● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 塚本 真輝(九州大学大学院数理学研究院 教授)

授賞題目: 力学系における平均次元の研究

授賞理由: 平均次元は,調和写像などの偏微分方程式の解空間を定量的に研究するために Gromov が1999年に導入した無限次元力学系の位相不変量である. 平均次元は主に力学系分野で研究されてきたが,Gromovの当初の動機である幾何学的偏微分方程式と直接関係する研究はほとんどなされておらず,幾何解析における平均次元の意義は理解されていなかった.

このような状況で,塚本真輝氏は以下の二つの幾何学的偏微分方程式に現れる無限次元力学系の平均次元の研究において決定的な結果を得ている. 一つは複素射影空間のBrody曲線の空間全体であり,もう一つは一様ノルムが定数で抑えられるような S^3×R 上のASD接続の空間である. Gromov自身は複素射影空間へのBrody曲線の空間の平均次元が正の有限値であることを示していたが,松尾信一郎氏との共同研究を含む一連の研究で,塚本氏は複素射影空間のBrody曲線全体の平均次元が正則曲線のエネルギー密度というNevanlinna理論的量により記述されることを示した. また,松尾信一郎氏との共同研究を含む別の一連の研究で,塚本氏は S^3×R 上の有界ASD接続の空間の平均次元が接続のエネルギー密度の上限により記述されることを示し,指数定理から得られるモジュライ空間の次元公式の類似が平均次元を用いることで有界ASD接続の空間に対しても成り立つことを示した.

上述の幾何解析的な平均次元の研究とは別に,塚本氏は平均次元の力学系への応用においても決定的な結果を得ている. Lindenstraussにより,コンパクト距離空間上の位相同型が生成する極小な力学系をHilbertキューブ([0,1]^N の可算個の直積とシフトから成る力学系)に埋め込むことが可能であるための(最良とは限らない)判定条件が,平均次元と N の比に関する不等式として知られていた. 塚本氏は,Lindenstrauss氏やGutman氏との共同研究で,極小力学系のHilbertキューブへの埋め込み問題に対して,平均次元を用いた最良の判定条件を与えることに成功している.

以上のように,塚本氏は幾何解析に現れる無限次元力学系に対する平均次元の幾何学的意義を明らかにすることによりこの分野を開拓し,また平均次元の位相力学系に対する応用においてもその貢献は顕著である.


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