● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 山ノ井克俊氏(東京工業大学大学院理工学研究科准教授)

受賞業績: Gol'dberg-Mues予想の解決

受賞理由: ネヴァンリンナ理論とディオファントス幾何の間には深い類似性があることが知られていますが,山ノ井氏はこの視点に立ってネヴァンリンナ理論に現れる接近関数についての第二主要定理の等式評価を証明することにより,1変数有理型関数に関する年来の未解決問題であるGol'dberg予想およびMues予想に決着を与えるという著しい結果を得ました.

業績説明

 山ノ井氏の業績については,準アーベル多様体への整曲線に対する高次元ネヴァンリンナ理論についての野口-Winkelmann両氏との共著も有名ですが,彼は2004年にVojtaの提起した関数体上のabc予想を解決するという著しい結果を得ました. この予想はMcQuillanも同時に解決したということになっていたのですが,実は後者の証明の細部は未だ公表されておらずギャップがあったと言われています.

 山ノ井氏はさらに1変数ネヴァンリンナ理論で画期的な成果を挙げました. 有理型関数のネヴァンリンナ欠如指数の複素平面全体にわたる総和が2以下であるということは古典的結果ですが,有理型関数の導関数の場合は総和は1以下になるであろうというのがMues予想で,1950年代にHaymanが3/2以下になるということを示し,その後4/3以下になるというところまでは知られていました. 山ノ井氏は,2012年にLondon Mathematical Societyから出版された論文で,複素平面上の有理型関数の高階導関数は極より沢山の零点をもつというGol'dberg予想をより強い形で証明することによって,上記の総和は1以下になるという最終的な結果を得ました. その証明は,タイヒミュラー空間論,普遍正則運動,モジュライのコンパクト化に現れる退化曲線の樹構造,双曲リーマン面に対する細・太分解,点つきリーマン球のモジュライ空間の境界の近傍における単射半径の評価等を用いており,随所に幾何学的アイデアが輝いています.


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