● 幾何学賞受賞者の業績

受賞者: 吉川謙一氏(東京大学大学院数理科学研究科)

受賞業績: 解析的トーションとモジュラス空間上の保型形式に関する研究

受賞理由: 吉川謙一氏は,R. Borcherds(第23回フィールズ賞受賞者)により定義されたモジュラー形式の幾何学的構成法をあたえることにより,解析的トーションとモジュラス空間上の保型形式の間の関係の解明に大きく貢献した.

業績説明

 吉川謙一氏は,1970年代にD. RayとI. Singerにより定義された「解析的トーション」とよばれるコンパクト・ケーラー多様体のスペクトル不変量を深く研究し,特異ファイバーをもつ複素多様体の族に対して,特異ファイバーの近傍における解析的トーションの漸近挙動の解析に関して目覚ましい成果を上げた.

 とくに,反シンプレクティック対合をもつK3曲面(標準直線束が自明,かつ不正則数が零な2次元コンパクト複素多様体)のモジュラス空間(複素構造の同値類全体の集合)に対して,Borcherdsにより定義されたモジュラー形式が,K3曲面上の対合に関する同変な解析的トーションと同一視されることを証明した.この事実は,楕円曲線のモジュラス空間に対して,その上で定義されるデデキントのエータ関数が,解析的トーションと同一視されることの普遍化と考えられる.

 また吉川氏は,これらの研究をさらに発展させ,H. FangやZ. Luと共同で,高次元カラビ・ヤウ多様体のグロモフ・ウィッテン不変量が解析的トーションで記述できるというBershadsky-Cecotti-Ooguri-Vafaの予想を部分的に解決している.

 吉川氏の研究は,ミラー予想,Quillen計量,ハイパー・ケーラー構造の理解にとって本質的な寄与をあたえるものであり,幾何学賞に相応しい優れた業績として高く評価される.


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