近年幾何学は数学の広い分野と関連を持ちつつ目覚ましい発展をしております. トポロジーとの関連は言うに及ばず, 大域解析学として多様体上の非線型偏微分方程式論にも, その進歩は著しいものがあります. 数理物理学と微分幾何学とのかかわりも従前にも増して深くなっております. そしてこれらの発展の中で数学者達は,幾何学,解析学,トポロジーという従来の枠を越えて協力し成果を挙げております. これらの研究を奨励し,目覚ましい業績を挙げた人にはその栄誉をたたえ, またこれらの研究を色々な形で支持して来た人々を顕彰するために「幾何学賞」を創設致します. 受賞の対象は微分幾何学に限定せず広い意味での幾何学へ貢献した人で, 年齢は問わず,また1つの秀れた論文でも, 永年にわたる論文その他の形の貢献の累積でもよいと考えます.
日本数学会には既に弥永賞があり,数学に関する重要な研究を発表し, その業績が特に優秀な40才以下の数学者を受賞者としています. 学問上の大きな業績が数学への最も重要な貢献であることは言うまでもないことであります. しかしまた永年にわたる地味な業績の累積により数学に貢献している人もあると思います. 幾何学賞はこのような業績も取り挙げたいと考えますので弥永賞をささやかながら補完する役割をも果たすものと考えます.
上記の目的を達成するために幾何学賞基金を設立することに致しました. 幾何学賞委員の選出に関しても,関連する分野を考慮に入れ, この趣旨に賛同の方が委員に参加して頂くことは当然のことと考えております.
基金は,特定の寄附金によることなく, まず数名の有志によって相当額が準備され, 後で広く有志に寄附を呼びかけることと致し度く思います. アメリカ数学会では既に有志の寄附による奨学金すら実現しております. 日本においてもささやかながら自発的な基金が出来ることを期待している次第です. これに関してはすでに非公式ながら多数の方々の賛同を得ております.
有 志 代 表 小 畠 守 生
1986年,日本数学会への申請書より